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千葉地方裁判所 昭和43年(ワ)270号 判決 1972年3月29日

原告 大熊伸

右訴訟代理人弁護士 伊藤銀蔵

被告 三浦昭二

被告 丸三金属株式会社

右代表者代表取締役 桐山武夫

右会社訴訟代理人弁護士 平田久雄

主文

一、被告三浦昭二は原告に対し三、五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三八年一月一日より支払いずみまで年一割五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告丸三金属株式会社に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告と被告丸三金属株式会社との間においては全部原告の負担とし、原告と被告三浦昭二との間においては原告について生じた費用を二分しその一を被告三浦昭二の負担とし、その余の費用は各自負担とする。

四、この判決の主文一項は仮に執行することができる。

事実

第一、申立て

(原告)

一、被告らは連帯して原告に対し三、五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年一月一日より支払いずみまで年一割五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行の宣言。

(被告丸三金属株式会社、以下被告会社という)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、訴外安藤良子は、訴外三浦あい子に対し、次のとおりいずれも利息月五分、弁済期昭和三八年一二月末日の約で、現金で各金員を貸し渡した。

1、昭和三七年四月二三日 一、〇〇〇、〇〇〇円

2、同日         二、〇〇〇、〇〇〇円

3、同三七年六月二二日    四五〇、〇〇〇円

4、同三七年六月二九日    五五〇、〇〇〇円

二、原告は、訴外安藤良子より昭和四一年三月二三日に右各債権の譲渡を受け、右訴外人は、同年同月二八日付内容証明郵便をもって訴外三浦あい子に対し右債権譲渡の事実を通知し、右郵便はそのころ右訴外人に到達した。

三、被告両名は、同四一年四月二一日、原告に対し、訴外三浦あい子が原告に対し負担する右債務元本のうち三、五〇〇、〇〇円につきこれを限度として債務者と連帯して保証する旨の連帯保証契約を締結し、右債務につき直ちに支払うべき旨を約した。

四、訴外三浦あい子は、同四二年八月四日までに四、〇〇〇、〇〇〇円のうち二一〇、〇〇〇円を支払った。

五、よって原告は、被告両名に対し連帯して右三、五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する同三八年一月一日より支払いずみまで約定利息のうち利息制限法所定年一割五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、答弁

(被告三浦昭二)

被告三浦昭二は、請求原因に対する認否をしない。

(被告丸三金属株式会社)

一、請求原因一、二の事実は不知。

二、同三のうち被告丸三金属株式会社に関する部分を否認する。その余は不知。

三、同四の事実は不知。

四、同五を争う。

第四被告丸三金属株式会社の主張

一、1、仮に被告会社の当時の代表取締役であった被告三浦昭二が原告との間に請求原因三記載の契約を締結したとしても、2、右契約をするに当り、被告三浦昭二は、商法二六五条による被告会社の取締役会の承認を受けていないから、3、被告会社と原告との間の右契約は無効である。

二、1、右契約は、被告三浦昭二が被告会社の代表者として、妻である訴外三浦あい子の原告に対する債務につき、連帯保証をしたものである。

2、商法二六五条は、取締役個人或いは第三者と、会社と、利害相反する場合に、取締役が、取締役個人或いは第三者の利益を図り、会社に不利益な行為を濫りに行うことを防止する趣旨であるから、同条の取引中には、第三者(である取締役の妻)の債務について、取締役が、会社を代表して債権者に保証を約するが如き、第三者に利益で会社に不利益を及ぼす行為をふくむ。

3、本件の場合、被告三浦昭二は、その妻の債務につき個人として連帯保証したが、これはまさに取締役個人の債務であって、更に被告会社を連帯保証債務者とすることは、被告三浦昭二にとって利益であり、会社に不利益を及ぼす行為である。会社と取締役との間に利害の衝突を来たすことは明らかであり、同条は、適用ないし類推適用さるべきである。

三、原告は、取締役会の承認を受けていないことにつき悪意であった。

第五、原告の反論

一、1、右契約は、被告三浦昭二が被告会社と取引したものではなく、原告と被告会社との契約である。

2、従って右契約については、被告会社の取締役会の承認を要しない。

二、1、被告会社が訴外三浦あい子の債務につき連帯保証するに至ったのは、訴外安藤良子から借用した四、〇〇〇、〇〇〇円のうち三、五〇〇、〇〇〇円は被告会社のためこれを流用使用したということであったので、その限度においてすることになったものであり、当然のこととして連帯保証契約をしたものである。

2、商法二六五条の取引行為に間接取引も包含されるとは、それが取締役個人の利益追及につきなされた場合のものであって、代表取締役が会社とともに第三者の債務につき連帯保証することまで包含しているものではない。

3、本件の場合被告三浦昭二は、会社の代表者として、訴外三浦あい子の債務を連帯保証したもので、被告三浦昭二個人の債務につき連帯保証したものではない。

被告会社と被告三浦昭二は共同の連帯保証関係にあるもので、しかも同時になされた併存的関係であり、被告三浦昭二個人の連帯保証債務が先行し、これを更に被告会社が連帯保証したものではない。また被告三浦昭二は原告に債務なく、被告会社は被告三浦昭二の債務を保証したものではない。従って本件契約により両者は何ら取引関係に立たず、また利益を受けるものではない。

4、訴外三浦あい子は被告会社の取締役ではないのであるから、取引の安全保護の見地から、かかる場合にまで商法二六五条の法意は拡張解釈されるべきものではない。

三、原告は、被告会社代表取締役に対し、正当手続を経た上で、訴外三浦あい子の債務につき、被告会社が連帯保証すべきことを要求した。被告三浦昭二は、会社側としては、連帯保証について内部的には何らの異論または問題がないものとして、本件契約をしたものであるから、原告は、善意の第三者である。

第六、証拠≪省略≫

理由

一、(被告三浦昭二に対する請求)

同被告は、請求原因事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。右事実によると、同被告に対する本訴請求は正当と認められる。

二、(被告会社に対する請求)

1、被告会社の連帯保証契約

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

(イ)、請求原因一ないし三の各事実。

(ロ)、本件連帯保証契約締結の際の交渉は、原告の依頼した弁護士の立会いの下に同弁護士の事務所で行われたこと。

(ハ)、その際原告は訴外三浦あい子が訴外安藤良子に差し入れた借用証を被告三浦昭二に示して同被告の妻に金を貸してあるがこれを支払う意思があるかどうかを聞いたこと。

(ニ)、同被告は、妻の借金を夫が払うのは当然だと言われ、何とかして支払う旨約束したこと。

(ホ)、同被告が「月いくら払うとは決められない、年にいくらかでも払えるだけ払う」と申し出たところ、同弁護士は、「それでもよいから書面を書いてくれ、良心的に年一〇〇、〇〇〇円でも、二〇〇、〇〇〇円でもよいから支払ってくれ、証書にある元金(三、五〇〇、〇〇〇円)だけはもらいたい、それにはたとえ一〇年以上かかってもやむを得ない」と答えたこと。

(ヘ)、同被告は、被告会社の設立された同三八年一一月四日から同四三年七月頃まで被告会社の代表取締役であったが、同四一年四月頃からは代表取締役の印鑑を専務取締役の桐山武夫(現在被告会社の代表者)に預け、自由に使えなくなっていて、被告会社の資本金の半分を同被告が出資し残額は取締役桐山武夫、同三輪次朗が負担していたこと。

(ト)  原告は、同被告が被告会社の代表取締役であることを知っていて、同被告の妻の借金は被告会社の資金にまわされているものと思い、同弁護士に話し、これを聞いた同弁護士が、同被告にその使途につき被告会社に入ったのではないかと追及したところ、同被告は判らないと答えたが、同弁護士は同被告に対しともかく被告会社の印鑑と印鑑証明証の持参を求め、同被告はこれを了承して、被告会社の取締役会の承認を受けずに、求められるまま本件連帯保証契約を締結したこと。

(チ)、同弁護士は、同被告に対し取締役会の承認を受けて来るように求めたことはないこと。

以上の事実が認められ、証人三浦昭二の証言中右認定に反し同弁護士は会社が保証することを求めたことはなく会社の印鑑と印鑑証明書の持参を求め、形式的に書類に会社の印鑑を押してもらうと言っただけであり、会社が保証したとは思っていなかった旨の供述部分は、私並びに弊社が連帯して支払いを保証しますと記載された前掲甲一号証に同被告が個人および被告代表者として連署していることおよび前掲各証拠に照らし直ちに措信することはできなく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

2、商法二六五条の適用

右認定の事実からすれば、被告会社の本件連帯保証契約は、取締役と会社との間に直接成立する利害相反行為ではないけれども、被告三浦昭二にとっては負担部分において利益がないとはいえなく、同被告が、取締役であることを不当に利用して、原告のために、会社の不利益において(≪証拠省略≫によるも原告の反論二の1の事実を認めるに足りず、他に右事実を認めるに足る証拠はない)、会社を代表して第三者(である原告)と取引したものであって、このような場合には、取締役が自己または第三者のために会社と取引をするには取締役会の承認を受けることを要する旨規定した商法二六五条の類推適用を受けるものと解するを相当とする。

3、原告の悪意

前認定のとおり、原告が被告三浦昭二に対し被告会社の連帯保証を要求したものであること、原告の反論三の事実を認めるに足る証拠がないこと、前認定のとおり法律専門家である弁護士が立ち会っているのに取締役会の承認手続を求めなかったこと、≪証拠省略≫によると原告は本件連帯保証契約成立後、何回か被告会社に被告三浦昭二を訪ねて行き保証債務の履行を求めている(この点は≪証拠省略≫によっても認められる)が、被告会社の専務取締役であった桐山武夫のいるところではその話を避け、被告会社の連帯保証債務について触れないようにしていたことが認められ、≪証拠判断省略≫≪証拠省略≫によると、原告は本件連帯保証契約の成立した同四一年四月二一日から本件支払命令の申立て(これが同四三年三月七日であったことは記録上明らかである)までの約二年間被告会社に保証債務の履行を請求していないことが認められる(≪証拠省略≫によっても原告はあくまで被告三浦昭二を相手にしていたので被告会社でしばしば会っている専務取締役桐山武夫に用件を話さなかったことが認められる)こと、以上の事実を総合すると、原告は被告会社の連帯保証に取締役会の承認を得ていないことを知っていたことを推認することができる。

4、そうだとすると、被告会社の原告に対する本件連帯保証契約は商法二六五条に違反し無効である旨の主張は理由があり、従って原告の被告会社に対する請求は失当となる。

三、よって本訴請求のうち被告三浦昭二に対する請求を認容し、被告会社に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

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